
「そろそろ、運転をやめたほうがいいのかな」。
ヒヤリとする場面が増えたり、家族に心配されたり。
そんなとき、頭をよぎるのが運転免許の自主返納です。
でも、車は長年の相棒であり、暮らしの足でもあります。
「返したら、買い物や通院はどうする」
——そう考えると、なかなか決心がつかない。
これは、とても自然な気持ちです。
大切なのは、「まだ大丈夫」と「もう不安」のあいだで、どう判断し、どう準備するかです。
この記事では、返納を考える目安、手続きの流れ、そして返納後も使える「運転経歴証明書」や特典まで、警察庁など公的な情報にもとづいて整理します。
「やめる」か「続ける」かの、判断材料にしてください。
自主返納とは?年齢制限はない
運転免許の自主返納とは、有効期限がまだ残っている免許を、自分の意思で返す手続きのことです。
意外に思われるかもしれませんが、年齢制限はありません。
大人世代に限らず、だれでも利用できます。
実際には、令和6年(2024年)の申請件数は約42万件で、そのうち6割ほどを75歳以上が占めています。
運転に不安を感じる方が、前向きに選んでいる制度です。
返納は、免許のすべてを返すことも、一部だけを返すこともできます。
たとえば、「大型免許は返すけれど、普通免許は残す」といった選び方も可能です。
生活に合わせて、無理のない形を選べます。
返納を考えるタイミングの目安
では、いつが返納の考えどきなのでしょうか。
年齢だけで決まるものではありません。
運転の様子に、こんな変化がないかを見てみてください。
- ブレーキとアクセルを、ふみ間違えそうになったことがある
- 信号や標識の見落としが増えた
- 車庫入れや駐車で、こすったり、ぶつけたりすることが増えた
- 合流や車線変更が、こわいと感じるようになった
- 同乗する家族が、運転をこわがる・注意することが増えた
- 通り慣れた道で、迷うことがあった
こうした変化は、運転能力が少しずつ変わってきたサインかもしれません。
とくに、家族が不安を口にするようになったら、それは大切な合図です。
本人は気づきにくいものだからこそ、周りの声に耳を傾けたいところです。
迷ったら「安全運転相談窓口」へ
「やめるべきか、続けられるか、自分では分からない」。
そんなときのために、全国の運転免許センターなどに「安全運転相談窓口」が設けられています。
専用の電話番号「#8080(シャープ・ハレバレ)」でも相談できます。
本人だけでなく、家族からの相談も受け付けています。
運転への不安を、専門の窓口に相談できる。
これを知っておくだけでも、「返納か継続か」を、一人で抱え込まずにすみます。
手続きの流れと必要なもの
返納を決めたら、手続きそのものは、それほど難しくありません。
手続きの場所は、運転免許センターや、お住まいの地域の警察署などです。
必要なものは、基本的に運転免許証です(地域によって異なる場合があるため、事前に確認すると確実です)。
手数料は、返納そのものにはかかりません。
警察では、返納しやすい環境づくりを進めています。
地域によっては、日曜日の受付や、家族などによる代理申請に対応しているところもあります。
さらに、本人が窓口へ行くのが難しい場合には、警察の職員が自宅などを訪問して受け付ける取り組みをしているところもあります。
「行くのが大変」という理由で、あきらめる必要はありません。
まずは、地元の警察署に問い合わせてみてください。
返納後も使える「運転経歴証明書」
「免許を返したら、身分証明書がなくなってしまう」。
これも、よくある心配です。でも、大丈夫。
返納後は、申請によって、「運転経歴証明書」を受け取れます。
この証明書は、公的な本人確認書類(身分証明書)として使えます。
銀行の窓口や、各種の手続きなど、これまで免許証を使っていた場面で、代わりに使うことができます。
ただし、いくつか条件があります。
- 返納から5年以内に申請する必要がある(5年以上たつと交付を受けられません)
- 交通違反などで免許を取り消された場合などは、対象外
「返納すると、身分証がなくなる」わけではありません。運転経歴証明書が、その役割を引き継いでくれるのです。
返納で受けられる特典

運転経歴証明書には、身分証明書としての役割のほかに、うれしいおまけがあります。
多くの地域では、「高齢者運転免許自主返納サポート制度」があり、運転経歴証明書を提示すると、さまざまな特典を受けられます。
内容は地域やお店によって異なりますが、たとえば次のようなものです。
- バス・タクシーの割引(車の代わりの移動を支えてくれます)
- お店での割引や、商品券などの特典
- 美術館や施設の割引
「運転をやめると、出かけにくくなる」
——その不安を、こうした移動の割引が、少しやわらげてくれます。
どんな特典があるかは、お住まいの都道府県警や自治体のホームページで確認できます。
返納を考えるなら、あわせて調べておくとよいでしょう。
免許更新時の検査も、判断の手がかりに
75歳以上の方が運転免許を更新する際には、認知機能検査と高齢者講習を受けることになっています。
さらに、一定の交通違反があった方などは、運転技能検査(実車試験)が必要になる場合もあります。
これらの検査は、「合格・不合格」を突きつけるためというより、自分の運転能力を、客観的に見つめ直す機会でもあります。
検査の結果や、講習で指摘されたことを、「そろそろ考えどきかな」という判断の手がかりにするのもよいでしょう。
検査でうまくいかなかった、指摘が多かった、という場合は、家族とも相談しながら、返納を含めて考えてみてください。
返納をためらう前に——「サポカー」という選択肢も
「まだ運転はしたいけれど、不安もある」という方には、サポカー(安全運転サポート車)という選択肢もあります。
自動ブレーキや、ペダルの踏み間違いを防ぐ装置などがついた車です。
- 自動(衝突被害軽減)ブレーキ:前の車や歩行者を感知して、ブレーキを補助
- ペダル踏み間違い時加速抑制装置:ふみ間違いによる急発進を防ぐ
こうした機能は、事故のリスクを減らす助けになります。
「返納はまだ早いが、不安はある」という段階では、サポカーへの乗り換えも検討の価値があります。
ただし、装置は万能ではなく、過信は禁物。
あくまで補助として、安全運転を心がけることが前提です。
運転に大きな不安がある場合は、無理に続けず、返納も含めて考えましょう。
返納後の「移動」をどう確保するか
返納で、いちばん心配なのが「移動の足」です。
返納する前に、代わりの移動手段を考えておくと、安心して踏み切れます。
- バス・電車などの公共交通:運転経歴証明書で割引が受けられることも
- タクシー:割引制度がある地域も。通院や買い物に
- 家族の送迎:無理のない範囲で協力してもらう
- 買い物の宅配・ネット注文:食料品や日用品を届けてもらう
- 地域の移動支援サービス:自治体やNPOが、大人世代向けの送迎サービスを行っている地域もあります
- 電動車いす・電動カート:近距離の移動に
「運転をやめたら出かけられない」と決めつけず、使える手段を組み合わせること。
地域包括支援センターや自治体に相談すると、地域の移動支援の情報も得られます。
家族で、どう話し合うか
返納は、本人にとって、長年の自立を手放すような、つらい決断でもあります。
家族が関わるときは、気持ちに配慮した話し合いが大切です。
- 頭ごなしに「やめて」と言わない:責めたり、急かしたりすると、かえって反発を招きます
- 本人の気持ちを聞く:不安や、車への思いを、まず受け止める
- 具体的な代替案を一緒に考える:「返したら、買い物はこうしよう」と、移動の見通しを一緒に立てる
- 「#8080」など第三者の力も借りる:家族だけで難しいときは、相談窓口や、かかりつけ医から話してもらうのも有効です
- タイミングを選ぶ:ヒヤリとした出来事があった直後など、本人も感じているときが、話しやすいことも
大切なのは、「運転をやめさせる」のではなく、「安全と、これからの移動を一緒に考える」という姿勢です。
よくある質問(Q&A)
Q. 返納したら、また運転したくなっても無理ですか?
A. 一度返納すると、再び運転するには、あらためて免許を取り直す必要があります。
だからこそ、焦らず、けれど不安が続くなら先延ばしにせず、よく考えて判断しましょう。
迷うときは#8080に相談を。
Q. 運転経歴証明書は、必ずもらえますか?
A. 返納から5年以内に申請すれば交付されます(交通違反等で取り消された場合などを除く)。
身分証明書として使え、特典も受けられるので、返納時に一緒に申請するのがおすすめです。
Q. 親が返納を嫌がります。
A. 責めず、気持ちを聞き、移動の代替案を一緒に考えましょう。
家族の言うことは聞かなくても、#8080の相談窓口や、かかりつけ医の言葉なら受け入れやすいこともあります。
焦らず、対話を重ねて。
Q. 田舎で車がないと生活できません。
A. 切実な問題です。返納の前に、公共交通、タクシー割引、宅配、地域の移動支援などを組み合わせられないか、地域包括支援センターや自治体に相談を。
サポカーへの乗り換えも一つの選択肢です。
返納後の暮らしを、前向きに楽しむ
運転をやめることは、失うことばかりではありません。
見方を変えれば、得られるものもたくさんあります。
- 事故の不安から解放される:「もし事故を起こしたら」という心配から自由になれます。
加害者にも被害者にもならずにすむ安心は、大きなものです - 車の維持費がなくなる:ガソリン代、車検、保険、税金、駐車場代
——車を手放せば、これらの出費がなくなり、家計もラクになります。その分を、タクシーや趣味に使えます - 歩く機会が増える:バスや電車を使うと、自然と歩く機会が増え、健康にもつながります
- お酒を気にせず楽しめる:運転しないなら、外出先での一杯も気兼ねなく
「運転をやめたら、人生が縮む」のではありません。
移動の手段を切り替え、浮いた時間とお金を、別の楽しみに使う。
そう考えれば、返納は前向きな選択になります。
よくある質問(Q&A)
Q. 返納は、何歳ですればいいですか?
A. 年齢で決まるものではありません。
運転にヒヤリとする場面が増えた、家族が心配している、といった「運転の様子」で判断しましょう。
迷ったら、#8080の安全運転相談窓口へ。
Q. 手続きに、家族が代わりに行けますか?
A. 地域によっては、家族などによる代理申請や、警察官の訪問受付に対応しているところもあります。
本人が窓口へ行くのが難しい場合は、地元の警察署に問い合わせてみてください。
Q. 特典には、どんなものがありますか?
A. 地域やお店によりますが、バス・タクシーの割引、店舗での割引や商品券、施設の割引などがあります。
運転経歴証明書を提示して受けられます。
詳しくは都道府県警や自治体のホームページで確認を。
Q. 返納後の移動が不安です。
A. 返納の前に、公共交通、タクシー割引、宅配、家族の送迎、地域の移動支援などを組み合わせる計画を立てておくと安心です。
地域包括支援センターや自治体に相談すると、地域の支援情報が得られます。
「やめる」ではなく「切り替える」
運転免許の自主返納は、年齢で決めるものではなく、運転の様子と、暮らしの安全から考えるものです。
ふみ間違いやこすり傷が増えた、家族が心配している
——そうしたサインが見えたら、「#8080」の相談窓口に、まず声をかけてみてください。
返納しても、運転経歴証明書が身分証の役割を引き継ぎ、移動の割引などの特典も受けられます。
手続きも、日曜受付や代理・訪問申請など、負担を減らす工夫が進んでいます。
返納は、「できなくなること」ではなく、「安心できる移動へ切り替えること」。
自分と、周りの人の安全を守るための、前向きな一歩です。
焦らず、けれど先延ばしにせず、今の運転と、これからの暮らしを、一度ゆっくり見つめてみてください。
<参照>
警視庁「運転免許証の自主返納・運転経歴証明書について」(手続き、必要なもの、特典) https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/menkyo/korei/henno_keireki.html
警察庁「運転免許証の自主返納について」(自主返納制度、申請件数、運転経歴証明書、安全運転相談窓口#8080) https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/jishuhennou.html
警察庁「安全運転相談」(#8080)
https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/anzenunten_soudan.html
政府広報オンライン「運転免許証の『自主返納』について考えてみませんか?」
https://www.gov-online.go.jp/article/201804/entry-7849.html




