
家族が亡くなったあとには、悲しみに向き合う間もなく、たくさんの手続きが押し寄せてきます。
「何から手をつければいいのか」「期限に間に合うのか」と、途方に暮れる方は少なくありません。
相続の手続きが難しく感じられるのは、やることが多いうえに、それぞれに期限があり、しかも順番が決まっているからです。
逆に言えば、全体像と順序さえつかんでしまえば、ひとつずつ進めていけるものでもあります。
この記事では、相続の手続きを時系列にそって整理し、絶対に押さえておきたい3つの期限、遺産分割の進め方、そして2024年から義務化された相続登記まで、はじめての方にもわかるようにお伝えします。
これは、いざというときのための「地図」です。
読んでおけば、その日が来ても、落ち着いて動けるはずです。
まず押さえたい相続の3つの期限
相続には多くの手続きがありますが、とくに重要なのは、次の3つの期限です。
ここを外すと、あとで大きな不利益につながることがあります。
| 期限 | 手続き | 起算日 |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認 | 相続の開始を知った日 |
| 4か月以内 | 準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日 |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 相続の開始を知った日の翌日 |
まず、3か月以内の「相続放棄」。
これは、借金などマイナスの財産が多い場合に、相続そのものを放棄する手続きです。
この3か月を過ぎると、原則としてすべての財産(借金を含む)を相続したものとみなされます。
「故人に借金があるかもしれない」というときは、真っ先に確認すべき期限です。
次に、4か月以内の「準確定申告」。
故人に確定申告が必要な収入(事業所得や一定額以上の年金など)があった場合、その年の申告を相続人が代わりに行うものです。
そして、10か月以内の「相続税の申告・納付」。相続税がかかる場合、この期限までに申告し、納税します。
ただし、相続税には基礎控除があり、多くの家庭では課税されません。
とはいえ、かかるかどうかの見極めには時間がかかるため、早めの確認が肝心です。
相続手続きの全体像を時系列で追う
3つの期限を意識しながら、手続きの流れ全体を時系列で見ていきましょう。
「いつ・何を」を、この順番で進めるのが基本です。
ステップ1:死亡後すぐ〜2週間(急ぐ手続き)
- 死亡届の提出(7日以内)
- 火葬許可の取得
- 年金の受給停止の手続き
- 健康保険・介護保険の資格喪失手続き
- 世帯主の変更(必要な場合)
このあたりは、葬儀と並行して進める、事務的な手続きです。
市区町村の窓口が中心になります。
ステップ2:〜3か月(相続するかどうかを決める)
- 遺言書があるか確認する
- 相続人が誰かを確定する(戸籍を集める)
- 財産と借金の全体を調べる(プラスもマイナスも)
- 相続放棄するかどうかを判断する(3か月の期限)
ここが、相続の土台をつくる、いちばん大切な段階です。
誰が相続人で、何が財産で、借金はないか。
これを3か月以内に把握し、放棄するかどうかを決めます。
ステップ3:〜4か月〜10か月(分け方を決めて納税する)
- 準確定申告(4か月の期限)
- 遺産の分け方を話し合う(遺産分割協議)
- 遺産分割協議書を作成する
- 相続税の申告・納付(10か月の期限)
ステップ4:期限に余裕はあるが放置は禁物
- 不動産の名義変更(相続登記/後述)
- 預貯金の解約・名義変更
- 株式・保険などの手続き
遺言書があるかどうかで進め方が変わる
ステップ2で最初に確認したいのが、遺言書の有無です。
ここで、その後の進め方が大きく分かれます。
遺言書がある場合は、原則としてその内容にしたがって遺産を分けます。
相続人同士の話し合いは、基本的に不要になります。
ただし、自宅で保管されていた手書きの遺言書(自筆証書遺言)は、勝手に開封してはいけません。
家庭裁判所での「検認」という手続きが必要です(法務局に預けられていたものや、公正証書遺言は検認不要)。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、分け方を話し合って決めます。
このとき目安になるのが、法律で定められた法定相続分です。
法定相続分の目安
法定相続分は、誰が相続人かによって割合が変わります。
代表的なケースは次のとおりです。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者 | ほかの相続人 |
| 配偶者と子ども | 2分の1 | 子ども全員で2分の1 |
| 配偶者と親 | 3分の2 | 親で3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | 兄弟姉妹で4分の1 |
ただし、これはあくまで目安です。
相続人全員が合意すれば、この割合と違う分け方をしても構いません。
話し合いでまとまった内容は、遺産分割協議書という書面にまとめ、全員が署名・押印します。
これが、その後の名義変更に必要になります。
なお、遺産分割の話し合いには、法律上の明確な期限はありません。
ただし、相続税の申告(10か月)に間に合わせる必要があること、また未分割のまま長引くと関係がこじれやすいことから、10か月をひとつの目安に進めるのが現実的です。
2024年から義務化された「相続登記」に注意
相続手続きのなかで、近年とくに重要になったのが、不動産の名義変更(相続登記)です。
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。
これまでは「いつかやればいい」とされ、放置されがちだったのですが、ルールが変わりました。
ポイントは次のとおりです。
- 不動産を相続で取得したことを知った日から、3年以内に登記の申請をする
- 遺産分割で取得した場合は、分割が成立した日から3年以内
- 正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の対象になることがある
- 2024年4月より前に発生した相続も対象(3年の猶予期間あり)
「親名義のままの実家がある」という方は、少なくありません。
過去の相続も対象になるため、心当たりがあれば、早めに手をつけておくのが安心です。
手続きは法務局で行いますが、書類集めが煩雑なため、司法書士に依頼する方も多くいます。
専門家と窓口をどう使い分けるか

相続は、自分たちだけで進められる部分と、専門家に頼んだほうがよい部分があります。
内容に応じて、相談先を選ぶと、費用も手間も抑えられます。
- 相続税がかかりそう → 税理士(相続税に強い税理士へ)
- 不動産の名義変更(相続登記) → 司法書士
- 相続人同士でもめている → 弁護士
- 戸籍集めや書類作成の代行 → 行政書士・司法書士
- 何から始めるかわからない → まずは市区町村の無料相談や、各専門家会の相談窓口へ
「全部お願いする」必要はありません。
自分でできることは自分で、難しいところだけ専門家に、という使い分けが、いちばん納得のいく形です。
相続税は、かかる家庭とかからない家庭がある
「相続税が心配」という声をよく聞きますが、実は相続税は、多くの家庭ではかかりません。
なぜなら、基礎控除という非課税の枠があるからです。
基礎控除の額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
たとえば、配偶者と子ども2人が相続人なら、法定相続人は3人。
基礎控除は「3,000万円+600万円×3=4,800万円」となります。相続する財産の合計が、この額以下なら、相続税はかからず、申告も原則不要です。
さらに、税負担を軽くする制度もあります。
- 配偶者の税額軽減:配偶者が相続する分は、法定相続分または1億6,000万円まで、相続税がかからない仕組みがあります
- 小規模宅地等の特例:自宅の土地などを相続する場合、一定の条件を満たせば、評価額を大きく減らせる特例があります
ただし、これらの特例を使うには、相続税がかからない場合でも申告が必要なことがあります。
財産が基礎控除に近い、あるいは超えそうな場合は、早めに税理士に相談しましょう。
「うちは大丈夫」と思い込まず、まず概算で確認することが大切です。
こんなときはどうする?相続のよくある悩み
相続では、思いがけない事情に直面することもあります。
代表的なケースと対応を知っておきましょう。
- 相続人の一人と連絡が取れない:遺産分割協議は相続人全員でする必要があります。
連絡がつかない場合も、勝手に進めず、専門家に相談を - 相続人に認知症の人がいる:判断能力が不十分な相続人がいる場合、成年後見制度を使うなどの対応が必要になることがあります
- 相続人に未成年がいる:未成年の子が相続人の場合、特別代理人が必要になることがあります
- 借金があるか分からない:財産調査で、プラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も調べます。
判断に迷えば、3か月の期限内に専門家へ - 生前にお金を援助してもらっていた:生前贈与が、遺産分割の際に考慮されることがあります(特別受益)
いずれも、自分たちだけで判断せず、早めに専門家に相談することが、トラブルを防ぐ近道です。
とくに期限のある手続きは、迷っている間に期限が過ぎないよう注意しましょう。
よくある質問(Q&A)
Q. 相続税がかかるか、どう調べればいい?
A. まず、財産の合計額を概算し、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除と比べます。
近い、または超えそうなら、税理士に相談を。
多くの家庭では基礎控除以下でかかりませんが、不動産があると評価額の見極めが必要です。
Q. 遺言書が見つかりました。すぐ開けていい?
A. 自宅で保管されていた手書きの遺言書(自筆証書遺言)は、勝手に開封してはいけません。
家庭裁判所での「検認」が必要です。
法務局に預けられていたものや、公正証書遺言は検認不要です。
Q. 相続放棄はどこでする?
A. 家庭裁判所に申述します。「相続の開始を知った日から3か月以内」が期限です。
借金が多い場合などに検討します。迷ったら、期限内に弁護士や司法書士に相談を。
Q. 実家が親名義のままです。急いだほうがいい?
A. 2024年から相続登記が義務化され、過去の相続も対象です。
放置すると過料の対象になることもあるので、早めに手続きを。
書類集めが煩雑なので、司法書士に依頼する方も多くいます。
Q. 手続きが多すぎて、何から始めればいいか分かりません。
A. まずは「3か月・4か月・10か月」の3つの期限を意識し、遺言書の有無を確認、相続人と財産を把握することから。
迷ったら、市区町村の無料相談や、専門家(司法書士・税理士・弁護士)の相談窓口へ。
一人で抱え込まず、頼れる先を早めに見つけましょう。
元気なうちにできるいちばんの備え
ここまでは、相続が起きた「あと」の話でした。
最後に、起きる「前」にできることを、ひとつだけお伝えします。
相続でもめる原因の多くは、財産の多さではなく、「どこに何があるか、家族が知らないこと」です。
だからこそ、元気なうちに、自分の財産のありかを1枚の紙にまとめておく。
銀行名、証券会社、保険、不動産の場所——金額は書かなくても構いません。
「ここにある」と分かるだけで、遺された家族の負担は大きく減ります。
そして、可能であれば、遺言書を用意しておくこと。
とくに、法務局で保管してもらえる自筆証書遺言や、公正証書遺言なら、検認も不要で確実です。
「うちは財産が少ないから」と思う家庭ほど、実は分けにくく、話し合いが難航しがちです。
全体像さえつかめば相続は怖くない
相続の手続きは、量が多く、期限があり、順番が決まっています。
だからこそ、3か月(相続放棄)・4か月(準確定申告)・10か月(相続税)という3つの期限を軸に、時系列で進める。
これが、迷わないための地図です。
まず遺言書の有無を確認し、相続人と財産を把握する。
分け方を決めて協議書を作り、名義変更へ。
そして、2024年に義務化された相続登記は、過去の相続も含めて忘れずに。
一つひとつは、決して越えられない壁ではありません。
全体像を知っていれば、その日が来ても落ち着いて動けます。
そして、いちばんの備えは、元気な今、財産のありかを1枚にまとめておくこと。
それが、大切な家族へのいちばんの思いやりになります。
<参照>
裁判所「相続の放棄の申述」(3か月の期限)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html
法務省「相続登記の申請義務化について」(2024年4月施行、3年以内の申請義務、過料)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
法務省「自筆証書遺言書保管制度」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00051.html
国税庁「相続税の申告と納税」(10か月の期限、基礎控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
国税庁「準確定申告」(4か月の期限)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm




