からだ

聞こえにくさを放置しない。加齢性難聴と補聴器を始めるタイミング

「テレビの音が大きいと言われる」
「聞き返すことが増えた」
「会話の輪に入るのが、おっくうになってきた」。
年齢を重ねると、こうした聞こえにくさが、少しずつ表れてきます。

「まだ大丈夫」
「補聴器はもう少し先でいい」
——そう思って、つい先延ばしにしがちです。

けれど、聞こえにくさを放っておくことには、思いのほか大きなリスクがあります。
実は、難聴は、認知症の危険因子の一つとされているのです。

この記事では、加齢性難聴とはどんなものか、なぜ早めの対応が大切なのか、そして補聴器を始めるタイミングと、失敗しない選び方まで、国立長寿医療研究センターや専門学会の情報にもとづいてお伝えします。

加齢性難聴とは?両耳で、少しずつ進む

 加齢性難聴とは、年齢を重ねるにつれて、耳の聞こえが少しずつ低下していくものです。
多くの場合、両方の耳で、ゆっくりと進むのが特徴です。

とくに、高い音から聞こえにくくなる傾向があります。
体温計の「ピピッ」という電子音や、女性・子どもの高い声が聞き取りにくい。
また、言葉の聞き分けが難しくなるのも特徴で、「音は聞こえるのに、何を言っているかが分かりにくい」という状態が起こります。
がやがやした場所での会話が特に苦手になるのは、このためです。

ゆっくり進むぶん、本人は変化に気づきにくいもの。
むしろ、「聞き返しが増えた」「テレビの音が大きい」と、周りの人が先に気づくことも多くあります。

なぜ「放置しない」ことが大切なのか

 聞こえにくさを放っておくと、単に「不便」というだけでは済まないことがあります。
理由は、大きく2つあります。

ひとつは、認知症との関係です。
医学誌『ランセット』の国際委員会は、認知症の予防可能な危険因子のなかで、難聴を大きな要因の一つとして挙げています。
聞こえにくさによって、会話が減り、人と関わる機会が乏しくなり、脳への刺激が少なくなることが関係すると考えられています。

もうひとつは、社会的な孤立です。
聞き取れないと、会話がおっくうになり、集まりから足が遠のく。
それが、気持ちの落ち込みや、活動の減少につながっていく。
難聴は、耳だけの問題ではなく、暮らし全体、心の元気にまで関わるのです。

だからこそ、「聞こえにくいな」と感じたら、放置しないこと。
早めに手を打つことが、認知機能の低下を防ぎ、人とのつながりを保つことにつながります。

補聴器を始めるタイミング

 では、いつから補聴器を考えればよいのでしょうか。
目安になるのは、「日常生活で、聞こえにくさに困り始めたとき」です。次のようなことが増えてきたら、検討の合図です。

  • 聞き返すことが増えた
  • テレビやラジオの音が大きいと言われる
  • 会話の内容を取り違えることがある
  • 何人かで話すと、話についていけない
  • 聞こえにくさから、人と会うのがおっくうになってきた

ここで大切なのが、「重くなってから」ではなく「早め」に始めるということです。
研究では、中等度の難聴がある場合でも、補聴器を使っている人は、認知機能の低下が抑えられていたという報告があります。
聞こえにくさが軽いうちから慣れておくほど、補聴器も使いこなしやすくなります。

失敗しない補聴器選びの手順

 補聴器は、メガネのように「買ってすぐ、ぴったり」というわけにはいきません。
自分の聞こえに合わせて調整し、少しずつ慣れていくものです。
だからこそ、選び方と相談先が大切になります。

まず訪ねたいのが、耳鼻咽喉科です。
聞こえにくさの原因が、耳あかのつまりや、治療できる別の病気ということもあるからです。
まずは医師に、耳の状態を診てもらいましょう。

そのうえで頼りになるのが、「補聴器相談医」です。
これは、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定した、補聴器にくわしい医師のこと。
適切な補聴器選びの、道案内をしてくれます。
購入は、認定補聴器技能者がいる、認定補聴器専門店で、じっくり調整しながら進めるのが安心です。

  • 通信販売などで、調整なしに買わない:合わないと「うるさいだけ」で使わなくなりがち
  • 試聴(お試し)をして選ぶ:実際の生活で聞こえを確かめる
  • 買ったあとも調整に通う:数週間かけて、自分の聞こえに合わせていく

費用の負担を軽くする制度も

 「補聴器は高い」というのも、ためらいの理由になりがちです。
でも、負担を軽くする方法があります。

ひとつは、医療費控除です。
補聴器が治療のために必要と認められる場合、購入費用が医療費控除の対象になることがあります。
補聴器相談医の診療を受け、必要な書類を作成してもらうことが条件になるため、購入前に相談しておきましょう。

もうひとつは、自治体の助成制度です。
お住まいの市区町村によっては、補聴器の購入費用の一部を補助してくれる場合があります。
内容は地域によって異なるので、市区町村の窓口で確認してみてください。

補聴器の種類を知る

 補聴器には、いくつかの形があります。
聞こえの程度や、使い勝手、見た目の好みに合わせて選べます。

  • 耳あな型:耳の穴に入れる小型のタイプ。目立ちにくいのが特徴。
    自分の耳の形に合わせて作るものもあります
  • 耳かけ型:耳にかけて使うタイプ。扱いやすく、幅広い聞こえに対応でき、種類も豊富です
  • ポケット型:本体をポケットなどに入れ、コードでイヤホンとつなぐタイプ。
    操作しやすく、手元で調整できます

価格は、機能によって幅があります。数万円のものから、高機能で数十万円するものまでさまざまです。
「高ければよい」というわけではなく、自分の聞こえと暮らしに合ったものを、専門店で相談しながら選ぶことが大切です。
医療費控除や自治体の助成が使える場合もあるので、あわせて確認しましょう。
なお、「集音器」は補聴器とは別物で、医療機器ではありません。
しっかり聞こえを補いたいなら、調整のできる補聴器を選びましょう。

補聴器を使いこなすコツ

 補聴器は、「つけたその日から、若い頃のように聞こえる」ものではありません。
脳が新しい聞こえに慣れるまで、少しずつ使っていくものです。
ここでつまずいて、「合わない」とやめてしまう人も少なくありません。

  • 最初は静かな場所から:家の中など、静かな環境で慣らし、少しずつ使う時間や場所を広げる
  • 毎日つける:たまにではなく、毎日使うことで、脳が音に慣れていきます
  • 調整に通う:使ってみて気になる点を伝え、専門店で調整を重ねる。数週間〜数か月かけて、自分に合わせていきます
  • あせらない:慣れるまで時間がかかるもの。「うるさい」と感じても、すぐにあきらめず、調整で改善します

「買って終わり」ではなく「調整しながら育てる」もの。
信頼できる専門店と、じっくり付き合うことが、補聴器を使いこなす秘訣です。

家族の「話し方」も、聞こえを助ける

 聞こえにくい人とのコミュニケーションは、家族の話し方でも、ぐっと楽になります。
補聴器と合わせて、周りの工夫も大切です。

  • 正面から、顔を見て話す:口の動きや表情も、聞き取りの助けになります
  • 少しゆっくり、はっきりと:早口や小声は聞き取りにくいもの。大声で怒鳴る必要はなく、ゆっくり明瞭に
  • 静かな環境で:テレビを消す、静かな場所で話すと、聞き取りやすくなります
  • 話題を区切って伝える:一度にたくさんではなく、区切って伝える
  • 聞き返されても、いやな顔をしない:安心して聞き返せる雰囲気が、会話を続けやすくします

聞こえは、本人だけの問題ではありません。
家族みんなの少しの工夫が、会話とつながりを支えます。

よくある質問(Q&A)

Q. 補聴器は、片耳だけでいい?
A. 両耳が同じように聞こえにくい場合は、両耳につけるほうが、音の方向が分かりやすく、聞き取りやすいとされます。
ただし、聞こえの状態によります。補聴器相談医や専門店で相談しましょう。

Q. 通販の安い補聴器や集音器ではだめ?
A. 調整のない製品は、「うるさいだけ」で使わなくなりがちです。
集音器は補聴器とは別物です。
しっかり聞こえを補いたいなら、まず耳鼻咽喉科を受診し、認定補聴器専門店で調整しながら選ぶのが確実です。

Q. 補聴器をつければ、認知症は防げますか?
A. 補聴器だけで認知症を防げるわけではありませんが、難聴は認知症の危険因子のひとつとされ、早めに聞こえを補うことは、会話や社会参加を保ち、認知機能の低下を抑える助けになると考えられています。

Q. 家族の聞こえが悪いのに、本人が受診を嫌がります。
A. 「年だから」と受け入れがたいこともあります。
「聞こえると会話が楽しくなるよ」と前向きに誘い、まず耳の健康チェックとして耳鼻咽喉科をすすめてみましょう。
放置は孤立や認知機能の低下にもつながるので、あきらめず対話を。

耳を守る、日ごろの習慣

 加齢による聞こえの変化は避けられない面もありますが、耳をいたわる習慣で、進み方をゆるやかにする助けにはなります。

  • 大きな音を避ける:長時間の大音量は、耳を傷めます。
    イヤホンやヘッドホンの音量は控えめに、テレビも大きすぎない音量で
  • 生活習慣病を管理する:高血圧・糖尿病などは、耳の血のめぐりにも関わるとされます。かかりつけ医と管理を
  • 禁煙・節酒:喫煙や過度の飲酒も、耳の健康によくないと言われます
  • 耳あかをためすぎない:耳あかのつまりも、一時的な聞こえにくさの原因に。気になれば耳鼻科で
  • バランスのよい食事・適度な運動:全身の健康が、耳の健康も支えます

耳の健康は、全身の健康とつながっています。
体をいたわることが、聞こえを守ることにもつながります。

聞こえのチェックと、受診の目安

 「自分は大丈夫かな」と気になったら、次のような点を確認してみましょう。
当てはまることが増えていたら、耳鼻咽喉科での聞こえの検査(聴力検査)を受けてみるとよいでしょう。

  • 聞き返すことが増えた
  • テレビ・ラジオの音を大きくしていると言われる
  • 電話の声が聞き取りにくい
  • 後ろから呼ばれても気づかないことがある
  • がやがやした場所での会話が、とくに聞き取りにくい
  • 「サ行」など、高い音・細かい音が聞き分けにくい

聞こえの検査は、耳鼻咽喉科で受けられます
「年のせい」で片づけず、数字で自分の聞こえを知ることが、対策の出発点です。
急に片方だけ聞こえにくくなった、耳鳴りやめまいを伴う、といった場合は、別の病気の可能性もあるので、早めの受診を。

よくある質問(Q&A)

Q. 補聴器は、何歳から使うものですか?
A. 年齢ではなく、「日常生活で聞こえにくさに困り始めたとき」が目安です。
軽いうちから使い始めるほど、慣れやすく、認知機能や社会参加を保つ助けにもなります。
「まだ早い」と思わず、困り始めたら検討を。

Q. 補聴器は保険がききますか?
A. 治療のために必要と認められれば、医療費控除の対象になる場合があります(補聴器相談医の診療と書類が必要)。
また、自治体によっては購入費の助成があることも。
まず耳鼻咽喉科と、市区町村の窓口に確認を。

Q. 耳鳴りもあります。難聴と関係ありますか?
A. 耳鳴りは、難聴と一緒に起こることがあります。
気になる耳鳴りが続く場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
原因の確認と、対処についての相談ができます。

「聞こえ」を取り戻すことは、暮らしを取り戻すこと

 聞こえにくさは、単なる不便ではありません。
放っておくと、人との会話が減り、認知機能や心の元気にまで関わってくる
だからこそ、「まだ大丈夫」で先延ばしにせず、早めに向き合うことが大切です。

聞き返しが増えた、テレビの音が大きいと言われる
——そんな合図があったら、まずは耳鼻咽喉科と補聴器相談医へ。
そして、認定補聴器専門店で、じっくり調整しながら、自分の聞こえに合う一台を選ぶ。
医療費控除や自治体の助成も、上手に使いましょう。

聞こえを取り戻すことは、会話を、人とのつながりを、そして毎日の楽しみを取り戻すこと。
耳を大切にすることは、これからの暮らしを豊かに保つ、大きな一歩になります。

<参照>
国税庁「補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/180416/index.htm
国立長寿医療研究センター「補聴器を使用すると認知機能低下を予防できる?」(難聴と認知症、早めの補聴器) https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/51.html
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器相談医/難聴と認知症」
https://www.jibika.or.jp/modules/hearingloss/
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器購入者が医療費控除を受けるために」 https://www.jibika.or.jp/members/iinkaikara/fukusi_koujyo.html

キラビュー編集部

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